2010年 05月 09日 ( 1 )

書評メール

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大阪府高槻市時代に、大変お世話になって、今でもいろいろ教えてくださる大学の先生が幾人かいらっしゃいますが、今日はそのお一人から貴重なメールを頂きました。私一人で独占するのはあまりにもったいないので、ここで、紹介いたします(ご本人の許可は頂いています。)。

思えば、霞が関時代からの習性として、大学の先生には、飛び込みでいろんなことを聞きに行ってました。大学の先生でなくても、やっぱり分からないことは聞くのが一番ですね。

樋渡 様

ご無沙汰しております。『江副浩正の真実』の読後感想をブログで拝見し、お便りいたします。お忙しいなか、継続して読書に勤しまれる姿勢に、いつも感心しておりますが、上記の本は、私も1ヶ月ばかり前に読んで、深く考えさせられた一冊でした。

樋渡さんは、江副氏の主張に必ずしも本当のことかどうか分からないとやや懐疑的な姿勢を持っておられるようですね。確かに、事実はどのようにも見えるもので、私もまた専門分野の関係もあって、歴史に関わるとその点に関しては、ずいぶんと疑い深くなるものです。

しかし、今回私は江副さんの本を読んで、やはり日本の検察、警察、裁判所をひっくるめた司法の問題点と、独自の取材をもとに真実に迫ることができず、ストーリーに従った一方的な「事実」を安易かつ無反省に報道する日本のメディアの未成熟を、より強く感じたというのが本当のところです。

多くの冤罪事件は別としても、政治が絡んだ事件に限ってみても、佐藤優氏の一連の作品、鈴木宗男氏の『汚名』、最近の小沢報道と郷原氏の著作などから、厚労省の村本さんの事件まで、そこにはほぼ同じ構図が透けて見えるのではないでしょうか。

ともあれ、私が深く反省したのは、事件当時からこの本を読み終えるまで、リクルートといえば大量の未公開株を使った贈収賄事件であることをまったく疑いもせずに今まで過ごしてきたことにあります。

江副氏が、リクルート事件のいくつかの容疑に関して、まったくの無実であるというわけではないとしても、彼が真実として主張したかったことが、これまで正当に省みられることなく済まされてきたことが、残念でなりません。事件からかなりの時間がたったからかもしれませんが、当事者である氏の証言は、一定の説得力のあるものだと感じます。

また、江副氏の謙虚さ、潔さとあきらめが、糾弾口調や恨み言ではない、ある種の悲しみとすがすがしさを、読者に与えてくれていると思います。

それにしても、やはり検察のやり方は、どうなんでしょうか。私自身、ライブドア事件や村上ファンドの捜査の時にも、「こんなことは許されない」という検察官の独りよがりの捜査指揮に、かなりの違和感を感じたのですが、本書におけるきわめて詳細な取調べでのやり取りの記録を見る限り、こうしたやり方は、リクルートの時も、そして今も、変わらず続いているという印象を拭えないところです。

強引な検面調書の取り方も、さまざまな苦痛を与えたり、取引をちらつかせたりしながら容疑者を追い込んでいくやり方も、当局の意に沿った証言をしない限り長期間にわたり拘束して保釈を認めないやり方も、あまりに非人間的で、あえて評すれば「あさましい所業」と言わねばなりません。

郵便割引制度不正事件で逮捕された厚生労働省の村木厚子局長は、一審の法廷において、取調べでは検察官から、「認めさえすれば、すぐに釈放され執行猶予にしてあげる」と勧められ、「まったく身に覚えのないことを認めるというのは、私の職業的良心に背くことになる」と言って拒否したことを、涙を流しながら証言したと伝えられました。無理につじつまあわせをしているのは、一体どちらなのでしょうか。

もうこうした嫌なことはお終いにしなくてはいけません。近代の裁判は、お白州とは違うという、当たり前の常識をもって多くの人が司法手続きを受け止めることができるようになりたいものです。お触れになった「取調べの可視化」は当然として、そうしたプロセスを通じて、社会が本当に成熟していくことを期待しております。

勝手な長文で、失礼しました。読み捨てていただきますよう、どうぞお願いいたします。



ブログやメール、ツイッターは本当に便利。S先生、これからもいろいろ教えてください。ありがとうございました。
by fromhotelhibiscus | 2010-05-09 17:32