【書評】沈みゆく帝国 スティーブ・ジョブズ亡きあと、アップルは偉大な企業でいられるのか

沈みゆく帝国 スティーブ・ジョブズ亡きあと、アップルは偉大な企業でいられるのか
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問題の書。激烈な書。陰影極まれる書。この本は、今のappleのように沈みゆくのであれば、後世賞賛されるだろうし、もしそうでないのであれば(appleファンとしてはこちらを期待)、著者の岩谷さんはダメジャーナリストの烙印をおされる。様々なノンフィクションを読んできましたが、優れた作品であっても著者が控え目か、そうでないにしても、まあ、ここまで結論は示さんよね。

結論だけでなく、その内幕の暴露、ディテールの切り込みが半端ない。

第16章では、サムスンとの法廷での激烈な戦い、息を呑みます。第7章では、シャープ買収を巡る攻防で日本でも知られている鴻海精密工業の労働者たちの悲惨さ、胸が痛みます。第9章では、Siriの大失敗、そして、随所に出てくるappleマップの大失態や権力闘争、笑うに笑えません。とまあ、ウォール・ストリート・ジャーナルのエース級の記者(日本人女性というのが誇らしい。)とはいえ、容易に様々な妨害に遭いながら、勇気を持って書き進めたということは容易に想像できる。よくもまあ、500ページを超す大著を描いたなあって心底感心。しかも、一度手にとったら、これは、編集者の中川ヒロミさんの手にかかるとそうなんだけど、昼夜なく読み進めなくてはいけないほどの中毒性を有する(笑)。

話はずれるけど、僕は塩野七生さんが大好きで、「ローマ人の物語」を読んでいた時と同じ状態の興奮感。塩野さんは、ローマ帝国の誕生、勃興から衰退、破滅まで、紆余曲折描き切り、岩谷さんは、アップル帝国のそれを描く。僕の中では、「ローマ人の物語」と並ぶ著作となった。

外村仁さんの解説、井口耕二さんの訳、いつもながらに、いやいつも以上に素晴らしい。それは、岩谷さんが持つ真実に迫る迫力に鼓舞されてのことかもしれない。ビジネスに役立つとか、マネージメントに効くとか、そんなことを吹き飛ばすだけの何もかも圧倒感と過剰感に満ち満ちた本です。ただまあ、ちょっと気になったのは、前半がそれでも、穏やかで抑え気味だったトーンが、後半、第17章あたりから急激に岩谷さんの筆致が厳しくなり、もう残り50ページあたりの第19章からは、apple叩きと言っても過言でない調子で、その没落の過程自体をめった打ちにする。ここらが、もしかすると評価の分かれ目になるかもしれないけど、appleファンとしてはちょっときつかった。ただ、外村さんの温かい解説と彼女の謝辞で、最後は柔らかく包み込まれた、少なくとも僕は。

この本は心からお薦めです。


by fromhotelhibiscus | 2014-07-06 14:32
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