武雄市の財政分析レポート

ちょうど10年前、私は総務省から大阪府高槻市役所に出向していました。その際、関西大学の誘致、JR高槻駅前の新たな大規模開発、放置自転車のYahoo!オークションなど、今につながる政策を展開していましたが、その際に、高槻市の財政はとても豊かなのに驚愕していました。大阪府内で第2位の健全財政。その立て役者が当時、財務部長をやっておられた畠中さんでした。僕は市長公室長という企画部長。

当時、「当代随一の財務部長が高槻にあり。」と大阪府内の自治体の皆さんが言っていたようで、僕らはいつも激論、その中で、公私共に大の仲良しというか、20歳ほど先輩の畠中さんを尊敬していました。

その畠中さんから、畠中さんらしい一通の手紙。それが、「武雄市の財政分析」です。ご覧ください。

樋渡さんお久しぶりです。畠中です。 私は、毎年、総務省から出される決算データをもとに、項目別に各市の順位を出し、その市が全国の中でどの位置にあるかが分かるように加工しています。 

前回、平成22年度決算をもとに、武雄市の分析結果を樋渡さんに送り、ブログに掲載していただきましたが、今回は平成23年度決算の状況も加えて、さらに武雄市の分析をしましたので、その結果を送ります。 よかったら使ってください。

今回は、合併前の1市2町の分析もしました。 また、勝手なコメントを述べていますが、戯言とお聴き逃しください。

 1 武雄市の基本的事項 人口(住基人口)は、平成18年3月(17年度末)の合併以来、一貫して 減少し、23年度までの6年間で1458人(2.7%)の減となっています。やはり、他市の例にもれず、過疎化と少子高齢化が武雄市にも及んでいるのでしょうか。           

 2 財政構造について  平成23年度の歳入総額240億4903万5千円は人口一人当たり47万737円で全国順位は786市中260位とやや多い目になります。 その財源の内訳をみると、まず、23年度の市税は53億6368万4千円で22年度よりも4.7%の増と好調ですが、人口一人当たりでみると、まだ10万4989円、全国順位589位(786位中)と低位を抜け出していません。 しかし、平成17年度(18年3月1日の合併時は17年度です)の合併当時の市税は47億9881万1千円(人口一人当たり9万1326円、全国順位628位(777市中)でしたから、6年間で11.7%も増加しています。また、この6年間を税の種類別の変化でみると、個人市民税は661位から605位に、法人市民税は448位から383位に、固定資産税は581位から557位にそれぞれ順位を上げています。 着実に武雄市の地力がつきつつあるのかもしれません。

 市税の少ない武雄市にとって最も大きな財源である地方交付税は、23年度75億7811万8千円で(人口一人当たり14万8335円、246位)が国から交付されており、17年度は65億3587万5千円(人口一人当たり12万4384円、222位)に比べてかなり増加しています。 しかし、国は、交付税特別会計で大きな借金(累積額約34兆円)をしながら地方に地方交付税を配分しています。現在の国の危機的な財政難の中でいつまで地方を支えることができるかわかりませんので、地方交付税に依拠している地方団体は国の財政状況に左右されずに、独自財源で運営できるようになればこれに越したことはありません。また、このことは市の財政面からだけではなく、市民が豊かになったその結果として市税が増えて市の運営が自律的なものになることが最も望ましいことです。 

その意味で、樋渡市長が独自のアイデアで、ITを駆使した教育改革や先進的な図書館運営などを通じて人づくりを行い、武雄温泉の観光客誘致や企業誘致、特産物のネット販売などの産業振興を通じて、街の活性化をさらに推進されておられることは大きな意義があると思います。 その他、国庫支出金は32億5584万2千円(一人当たり63730円、201位)、 県支出金は17億9723万8千円(35,179円、216位)地方債は23億7332 万3千円(46,456円、221位)となっており、それぞれ、歳入全体の順位に ほぼ見合ったものとなっています。 

 3 武雄市の財政の健全性について 武雄市の財政運営は、経常収支比率、地方債残高、積立金、人件費等からみて、引き続き非常に健全な状態を維持向上されています。 まず、平成23年度の経常収支比率は85.4%で22年度に比べ1.3ポイント悪化していますが、全国順位は144位(昨年度145位)と引き続き良好な水準にあります。また、前回の分析でも強調しましたように、平成17年度の93.5%(515位)から劇的に改善しています。

 次に積立金ですが、97億9590万9千円(一人当たり191,746円)と22年 度の91億8811万7千円に比べてさらに6億779万2千円も増加していま す。全国順位は115位と上位にあります。17年度が79億5645万5千円で したから、6年間で18,4億円も増加させています。現在の市民が将来の市民 のために残している貯金(積立金)がこれだけあれば、多少の景気変動や年度 間の財源のアンバランスがあっても、この積立金で十分に調整できます。 市の借金である地方債残高は、23年度238億2923万4千円、市民1人当た り466,435円で全国順位289位とやや上位にあります。ただ、17年度259 億6868万9千円からは、21,4億円減少させています。 

また、職員数についても、23年度は団塊の世代の退職の最終局面に当たり ますが、退職数よりも採用数を少なくしておられるようで、職員数が10人 減少しています(22年度367人→23年度357人)。17年度の職員数は409 人でしたから6年間で52人、12.7%の減となっています。 職員一人当たりの職員給もさらに下がっています(22年度5,947,283円→ 23年度は5,873,392円)。これは既存の職員の給与を下げたのではなく、勤務年数の多いため高給となっている高齢者の退職と職員採用数の抑制の結 果であると考えられます。

 したがって、人件費は17年度46億6432万4千円から23年度36億50万2 千円と、この6年間で10億6382万2千円も下がっております。(22年度と 比べて23年度人件費が少し増えている(1300万円の増)のは、一時的な出費である退職金が退職者の増のため約3千万円増加しているためです。 以上のデータを踏まえると、合併後の武雄市は、内部経費である人件費を職員数を抑制することで節減し、この財源を市民への各種行政サービスの向上に充ててこられたであろうことが見えてきます。 

また、一方で市の借金は減らし、積立金は増加させて将来の市民の負担をで きるだけ軽減する方策も採られております。 私も高槻市の財政運営に少なからず携わってきた経験からいわせていただくと、武雄市の運営は満点に近い運営が行われていると思います。 樋渡さんの采配に加えて、周りに優秀なスタッフが付いて支えてこられた結果なのではと推察します。 

 4 今回の分析で改めて気付いたことがあります。 それは、合併後の武雄市の地方債残高や積立金の健全性は、合併前の山内町と北方町の超堅実な財政運営が土台になっていることです。 よく合併する前に、多額の合併特例債(償還額の75%が地方交付税で補てんされる)を発行し、いろいろな施設を作りすぎて、あとで運営費や借金返済で苦労している市があると聞きますが、決算をみる限りこの二町はそのようなことは全くありません。  

合併直前の平成16年度の旧武雄市、山内町、 北方町のそれぞれの人口一人当たりの地方債(借金の額)をみると、旧武雄市が 50万1236円(全国順位732市中214番目に多い市)である一方で、北方町は 42万6836円、山内町は38万4413円と、非常に少ない残高になっています。 その結果、3団体を合計した残高は246億9178万5千円ですが、を人口一人当たりにすると46万7594円となり、全国順位は借金の多いほうから253番目に順位を下げています。 

 また、積立金では、さらにこの傾向が顕著です。 平成16年度の旧武雄市の積立金の人口一人当たり9万1960円は、全国732 市の平均4万8243円に比べて倍以上で、順位も167位と上位でしたが、山内町の積立金が一人当たり27万6829円、北方町のそれは30万7476円とケタ違いの多さ。 このため、3団体の積立金を合計すると、実に総額85億1423万円、一人当たり16万1236円となり、全国順位はいっぺんに32位と全国最上位のクラスになりました。

 旧武雄市もそれなりに健全な財政運営をしておられました。 しかし、以上の分析のように、山内町と北方町は、けた外れに抑制のきいた 超健全な財政運営をされてこられています。当時の町長、町議員さんをはじめ、町財政を支えた職員さんたちの功績が大きいのではと思います。 それにしても、武雄市はいい組み合わせで合併された街だと思います。 樋渡市長は、平成18年に就任され、目を見張る政策展開の素晴らしさは全国的に注目されているとおりですが、財政運営の面でも、合併前の1市2町の健全な財政状況を土台にして、さらにその健全性を進展させている、という面を地味 なことですが見逃してはならないというのが私の結論です。 今後とも頑張ってください。以上です。

写真は10年前の畠中部長。今もお変わりありませんが。絵画もたしなまれ、まさに多芸多才の見本のような方。
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by fromhotelhibiscus | 2014-02-18 20:43
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