【レビュー】リンカーン

1865年1月、奴隷解放の賛否をめぐり起こった南北戦争は4年目に突入し、多くの若者の命が奪われていた。“すべての人間は自由であるべき"と信じるリンカーン大統領は、自由実現のために憲法修正が必要だと考え、合衆国憲法第13条を議会で可決させるべく、なりふり構わぬ多数派工作を進めるのだった。しかし、長期化する戦争の影響で形勢は極めて不利になるが、リンカーンはあらゆる策を弄して敵対する議員の切り崩しにかかる。そんな中、息子ロバートは父の反対を押し切り軍に志願し北軍に入隊してしまい一人の父親としても大きな試練に直面していくのだった。自分の理想のために失われていく多くの命、人間の尊厳と戦争終結の狭間に立たされたリンカーン。合衆国大統領として、一人の父として、国家の危機を乗り越えることができるのだろうか――。

世界史上にその名を燦然と残す第16代大統領エイブラハム・リンカーンが主役の映画、その名も「リンカーン」。スピルバーグ監督、昨年のアカデミー2部門受賞。去年、海外出張中、機内で見損ねていたので、見たい見たいって思っていたら、昨日までの新幹線移動、iTunesからダウンロードで見ました。初めてはっきり分かったんですが、日本のiTunesはダメですね。全然、観たい、観るべき映画が入っていない。困ったものだ。

それはともかく、この作品。ちょっとの分かりにくさと暗さを我慢すれば、傑作だと思います。特に、憲法修正に至るリンカーンの狂気とも言える凄まじさ、命を縮めるほど傾注して下院20票差を逆転させるさま、すなわち、なりふり構わぬ多数工作は、奴隷解放の聖人像としてのリンカーンからは大きくずれます。よく言えば人間臭い。悪く言えば血なまぐさい。権力絶頂の中、主役ダニエル・デイ=ルイスのホワイトハウスをとぼとぼ歩く、その背中をロングで描くんですが、痺れます。その対比が凄まじい。

妻や息子との確執、和解まで、うまく入ってきて、さすが、スピルバーグ。また、オバマを遙かに上回る名言を残したリンカーンの言葉も度々スクリーンに。SUNTORYのBOSSでも快演が光るトミー・リー・ジョーンズが共和党の重鎮を演じているが、これがまた見もの。主役に完全に並ぶ(笑)。

下院議会が物語の中心を占め、その裏側に激しい多数派工作。惜しむらくは、反対派の民主党の防戦が描かれていなかったこと(やってなかったとは思えないんですが)。ま、こんなことを思うのは、僕だけかもしれない。なにせ、職業が・・だから。

ともあれ、政治に関心のある方は絶対にお薦めの映画です。


【レビュー】リンカーン_d0047811_10545177.jpg

by fromhotelhibiscus | 2013-11-16 11:25
<< 久松農園の野菜を食べてみた 再会 >>