【書評】法服の王国 小説裁判官

「裁判官はあくまで政治的に中立でなければならない」石田和外最高裁長官の言葉で、粛清人事が始まった。
大阪地裁の村木健吾ら「現場組」は、司法反動の激流に抗し、「裁判官の独立」を守ろうとする。
一方、父親が犯罪者という十字架を背負う津崎守は、「司法の巨人」弓削晃太郎に見込まれ、エリート司法官僚の道を歩き始める。
最高裁は、札幌地裁の自衛隊訴訟判決に対する自民党の怒りを恐れ、「長沼シフト」を検討。
松山地裁で白熱する伊方原発訴訟の攻防は、津崎をも巻き込む―。
裁判所の内幕を抉る社会派巨編小説!


黒木亮の最新刊。法服の王国 小説裁判官


黒木亮を読むのは初めて。確か、日経新聞にドカンと広告が載っていたので、即買い。「白い巨塔」の山崎豊子のようにエンターテイメント色バリバリかと思ったらさにあらず。大学時代に習った様々な判例がいたるところに。それでも、読み進めるには、正直言って骨が折れます。これをマイナスとみるか、プラスとみるか、まず、読後感の分かれ目ですね。

また、実名と架空名と。政界では、前原誠司さんや後藤田正晴さんが架空の名前として出てきますが、どこをどう考えても、ご本人。あまりにも巧みなので、どこまで史実で、どこからフィクションか分かりません。シームレス(継ぎ目が無い、分からない)そのもの。どこかの図書館のようです。


独立した身分であるはずの裁判官。しかし、弱小官庁である裁判所の一員でもあり、かつ、政治や社会情勢の影響をもろに被る。また、人間の仕事と思えないほど、多忙を極める人たち。政治家顔負け、いやそれ以上の密室での激しい権力闘争などなど。優越感と劣等感とない交ぜになっていることは、直接、間接、聞きますが、この本では、極めてリアルに浮かび上がらせます。それにしても、国の政策を追認し、裁判所としては、その是非を避け続けていた原発裁判だって何だったんだろうって思います(ただ、これは、私たち国民にも責任はあります。)が、なぜ、そうなってきたのか、とても良く分かる、納得できる内容となっています。

また、僕がいいなって思ったのは、どんな悪役でも、良きところをきちんと描いているところ。これだけ、人間の多面性を描けば描くほど、話が分散化していくのだけど、ぎりぎりのところで収めている、著者の力量。

ただ、残念なのは、ラスト直前のどんデン返しの後の、淡泊さ。上下900ページ、圧倒的な筆量と筆感で突き進むだけに、ラストが・・。しかし、そうは言っても、読む価値十分です。

改めて、世紀の判決を下した、権力に抗い続けた村木裁判官。キャラ立ちでは誰にも負けない弓削、もう一人の主人公である津崎裁判官の暗黒の過去、異彩を放つ女性裁判官である黒木など、ドラマにしてほしい。これから、黒木作品も読むことにします。
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by fromhotelhibiscus | 2013-08-29 23:59
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