【書評】影法師

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今話題の百田尚樹の文庫本の一つである「影法師」。氏にとっては珍しい時代劇。というか、特攻隊員、大経営者など様々な人たちが主人公として登場するので、そういう意味では珍しくないが。

こんな作品です。

頭脳明晰で剣の達人。将来を嘱望された男がなぜ不遇の死を遂げたのか。下級武士から筆頭家老にまで上り詰めた勘一は竹馬の友、彦四郎の行方を追っていた。二人の運命を変えた二十年前の事件。確かな腕を持つ彼が「卑怯傷」を負った理由とは。その真相が男の生き様を映し出す。『永遠の0』に連なる代表作。


これもまた飛行機の中で貪るように読んだ。伏線が伏線を呼び、最後はきっちり落とす、というのは、いつもの百田節。傑作「永遠の0」、これまた傑作「海賊と呼ばれた男」には残念ながら並ばないが、それでも、読む価値がある。まず、なぜ並ばないのか。あまりにも話の運びが完璧すぎるから。百田さんには珍しく、展開に揺らぎが無い。上手く言えないけど、数列を読んでいるみたいだった。

それだけが欠点で、あとは、素晴らしい。何が素晴らしいかと言えば、今週の「情熱大陸」でも百田さんが取り上げられていたが、とことん、人間を愛し、人間の善なるものに光を当てている。その姿勢が一貫し、清々しいところ。百田さんは、テレビでこのような趣旨のことを言っていた。「人間の醜いところは、報道される事件で辟易。私は、人間の良い部分だけを書きたい。」と。

その良さ、という意味では、二つの傑作群よりもピュアで痛々しいほど。最後の袋とじも驚いたけど、僕は、この袋とじで語られる内容は絶対にあった方が良いと思う。それは、ある意味、そこに到るまで無かった雑味だから。この袋とじのお陰で、話が立体化し、清々しさから人間味が増す。このどんでんん返しは僕は無理が無いと思うが、意見は分かれるだろうなとは思う。

決闘のシーンなど、ストーリー以外の描写も見事だし、最高に素敵な悪役も出てきます。百田作品、次は何を読もうかな。
by fromhotelhibiscus | 2013-06-13 23:06
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