【書評】カウントダウン・メルトダウン

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船橋洋一の最新刊「カウントダウン・メルトダウン」。

以前は、海外出張や海外旅行の時、なるべく本を絞るか、持って行くにしても邪魔にならないように、文庫本が多かったのですが、iPadが出てから、ひたすら、自炊して入れ込んでいます。正確には数えてませんが、100冊以上は入っています。で、僕は基本的に新しもの好きなので、iBooksを見ていたら、前から読みたかった本、カウントダウン・メルトダウンが。これって、上下巻で1700ページ、厚いし重いけど、iPadでは重さ変わらない。また、それよりも、とても滑らかで読みやすかったですね。

今回の出張は、文庫本2冊と新書1冊(離着陸時必要)とiPad。iPadには、新たに5冊入れていたんですが、このカウントダウン・・、一気に引きずり込まれました。あの2年前の3月11日に。

福島第一原発事故をセンターピンとして、官邸、東電、霞が関、永田町、被災地を、時々刻々、丹念に追っているドキュメント。これほど、膨大なインタビュー、取材、資料読み込みができ、かつ、これだけ短時間に、出版物として出せるのは、日本広しといえども、この人しかいない。

僕は、「通貨烈々」を始め、船橋さんの作品はほとんど読んでいる大ファンなんだけど、今回の作品は極めて異質。それは、古巣朝日を離れたせいか、かなり、自由に剛胆に描いている点もさることながら、船橋さん自身の意見、すなわち、焦り、悲しみ、怒り、安堵感がかなり色濃く投影されている。

船橋作品に慣れている人からすれば、この点が違和感として残るかもしれないけど、僕は、高く評価したい。僕もインタビューを受ける立場にありますが、できないジャーナリストに限って、僕に「言わせよう」とする。僕はもともとサービス精神旺盛なので、それはそれで良いんだけど、自分の記事を見るにつけね、「じゃ、これはあなたの意見でしょ。あなたの意見として書けば。」って思う。

話は飛んだけど、船橋さんが国益をどう考え、政治や行政についてどのような立ち位置かも良く分かる。また、それよりも、大震災では、菅総理の罪や悪ばかり喧伝されるけど、この人の功も触れてある一方で、現人神と称された吉田所長の罪にも言及している。そういう意味では、バランスが取れている。その中で、やっぱり、酷かったのは、東電本店、保安院。そして、文部科学省を筆頭とする霞が関。高く評価されていたのは、細野さん、寺田さんを始めとする若き政治家。私心を離れ、国益、地域住民の利益に揺れた人たちには、温かい、救いの書となっている。

優れた本というのはいろんな読み方ができると思う。僕は、今の立場からして、地域の危機管理、危機が起きたときにどのように対処するのか、また、危機に当たってのリーダーシップとはどういうことかということを反芻しながら読んだ。また、2度目読んだときは、ストーリーとして。そこらの小説よりも遙かにスリリング。言葉使いも極めて平易だし分かりやすい。そして、3回目は、では、今、置かれている福島を始めとする被災地に対して、自分が首長として、また、一市民として何ができるか、を中心に読んだ。お薦めの本です。
by fromhotelhibiscus | 2013-05-21 23:23
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