「運命の人」読んだ

毎朝新聞政治部記者、弓成亮太。政治家・官僚に食い込む力は天下一品、自他共に認める特ダネ記者だ。昭和46年春、大詰めを迎えた沖縄返還交渉の取材中、弓成はある密約が結ばれようとしていることに気づいた。熾烈のスクープ合戦の中、確証を求める弓成に、蠱惑的な女性の影が…。戦後史を問いつづける著者・渾身の巨篇。
「運命の人」読んだ_d0047811_21192917.jpg


巨匠というか巨人、山崎豊子が大好きで多くの本を読んできました。今回は、最新刊「運命の人」。驚異的なスピードで文庫本が出たのですが、待ってて良かった(笑)。

西山事件をモチーフにした内容というのはあまりにも有名。それと、この西山記者と山崎豊子は、同じ毎日新聞。そういうこともあるのか、西山記者をモデルにした弓成記者には終始あたたかい目線。

確かに、山崎先生、齢90歳を目の前にして、中期までの圧倒的な文体の稠密感、余人を寄せ付けないストーリー展開、息苦しくなるような人間性の描き方など、そんなものはほとんど無い。しかし、晩年の骨董品とぼろくそに評され、僕もそうだと思ったピアニストのホロヴィッツとは違い、粗製濫造気味の芥川賞作家よりも遥かに上。

それと、読み終わったのが、沖縄講演から帰る飛行機の中ということ。首長パンチにも書いたけど、僕自身が仕事として沖縄に一時期深く関わっていたこと、そして、一人の人間として沖縄文化にはまりにはまっていたこと。いろんなことがないまぜになりました。

ただ、職業人として言えば、巻末にある取材協力者のリストは偏り過ぎ。しかしね、それを差し引いても、当代随一の語り部、山崎豊子を通じて、彼女自身、未消化ながらも、発せずにはいられない沖縄の深い慟哭が乱反射する光として、紙から飛び出して来る。そういうわけで、僕自身は、ジェットコースターのようなスクープ合戦、外務省高官との神経戦、息を飲む法廷劇、元女性事務官の執拗な攻撃などよりも、打って変わった第4巻の沖縄の場面が好き。

最後の1ページで、なぜ、筆者がこのストーリーを「運命の人」と名付けたのが、分かります。仕事で上手くいかずくじけそうになっている人、失意で溺れそうになっている人に特にオススメです。
by fromhotelhibiscus | 2011-03-05 23:59
<< 民主党に告ぐ。 ご用聞きでいいんです。 >>